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長かった~~~。

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 「日本一のおかき処」で有名な播磨屋本店が豊ノ岡工場(兵庫県豊岡市)の敷地内に三重塔を建立されます。構造設計の依頼をお受けして、モデルとなった斑鳩寺の三重塔を見学したのが、平成24年2月1日でした。あれから約2年、ようやく建築確認申請が提出できるまでにこぎつけました。どうしてこんなに時間がかかったかというと、主たる原因は限界耐力計算が使えなかったからです。根拠なく限界耐力計算でいけると考えていたわけではありません。日経アーキテクチャの2011年9月25日号に大成建設が設計施工した法然寺五重塔が紹介されています。この中に限界耐力計算を採用し工作物として申請したと書いてあったからです。天下の大成建設が言っているのだから大丈夫だろうと・・・。ところが兵庫県に問い合わせてみたところ、工作物には限界耐力計算のルートがないので、仕様規定を守れないのなら構造評定+大臣認定しかないといわれました。人間が中に入る建築物なら限界耐力計算でよいのですから、多分、建築基準法のミスだと思うのですが、法律ですから仕方ありません。やったことのない時刻歴応答解析で大臣認定を取得することになりました。
 まず解析ソフトを探しました。偶然、ナストランという有限要素法のソフトが借用できたのでモデル化をはじめました。6か月やりましたが、結局まともに動かすことができませんでした。ソフトについてはその後、鈴木祥之先生に助けてもらい、なんとか切り抜けました。耐震設計をする場合、建物重量はとても重要です。ところが、三重塔は形状が複雑で重量がわかりません。そこで3次元CADに入力して体積を計測することにしました。この作業は、所員が3か月かかりきりで入力してくれました。
 そもそも時刻歴応答解析とはどういった解析方法なのでしょう。地震波をモデル化した建物に入力して時刻ごとの変位を計算するものです。もちろん電卓では計算できません。通常は60メートルを超える超高層建築の設計に使われていて、東京スカイツリーもこの方法で設計されているはずです。こんな高度な解析をするのですから、適切なモデル化と地震波、そして建物重量さえそろえばできたも同然だと考えていたのですが、そうは問屋がおろしません。時刻歴応答解析を使うのは耐震設計の2次設計だけで、耐震設計の1次設計とその他の設計は許容応力度設計が必要だったのです。当たり前といえば当たり前ですが。
 なんとか計算書をまとめて審査機関に相談に行ったのが24年12月17日でした。そこで驚愕の言葉を耳にします。「そんなん勝手に建てたらええのに・・・」。しかしそういうわけにもいかず、大量の指摘事項をいただいて帰ってきました。計算書を直しだすと間違いに気づき、間違いを直すと勘違いに気づき、といった具合でなかなか収束しなかったのですが、ようやく25年6月11日に評定の受付委員会に上げてもらいました。通常の評定では受付委員会の後、部会が2回程度開かれて報告委員会に報告という感じですので、2か月程度で処理されているとのことでした。しかし今回は部会が7回開かれ、審査機関の最高記録を更新したとのことでした。部会が行われるたびに質疑事項が増えていき、もう一生終わらないかもと思うほどでした。建設地は1.5メートルの多雪区域なので、落雪の衝撃力や巻き垂れなど、検討方法のないことについても検討を要求されました。また、柱脚が浮き上がり量を予測したり、その後着地した時の衝撃力に対して安全かなど・・・。高校生の物理レベルで大学教授を納得させられるはずもなく、最後には結構助け舟をだしてもらいました。
 11月16日に開かれた第7回部会ですべての質疑が処理でき、11月26日に報告委員会で報告していただきました。その後、審査機関の審査を経て26年1月10日に国交省に申請し、3月3日付けで大臣認定をいただきました。この三重塔には日本で初めてのことがあります。文化財でない新築の塔は当然のことながら建築基準法を守らなければなりませんので、これまで建立された文化財でない塔には塔体に金属によって補強がされていると思います。文化財でも補強されているものがあるくらいです。しかしこの塔には、芯柱の相輪部分と4隅の柱脚にはめた割れ止めのタガ以外、金属の補強は一切なく、伝統構法そのものです。もちろん柱脚は石の上に乗っているだけの石場建てです。それにしてもよく評定が下りたものだと思います。塔が安全なのかどうかは今のところ誰にもわかりませんが、それでも安全だといってもらえたのは多分、部会の先生や審査機関の担当者の方々の粋な計らいなのだと思います。長く苦しい2年間でしたが、終わってみれば結構充実していました。最後になりましたが、鈴木祥之先生をはじめ、斉藤幸雄先生、後藤正美先生、上谷宏二先生、宮本裕司先生、清水秀丸先生、瀧野敦夫先生、播磨屋三重塔研究会の先生方、審査機関のみなさん、そのほかここに書ききれないほどのご指導いただきました先生方、本当に感謝しております。(川端建築計画 川端眞)
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# by moritomizunokai | 2014-03-10 19:36 | 雑感  

理事長現る(伝統技法研究会編)

29日の土曜日に伝統技法研究会の取材を受けるため、理事長にわざわざ東京から戻ってきていただきました。まずは事務局にて水中乾燥に関するひととおりのレクチャー、最新の情報をお話ししてから、甲賀森林組合と溜池を視察して頂きました。

和やかな雰囲気ですが、話の内容は凄いレベルです。
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森林組合の倉庫に置いてある水中乾燥材です。奥の上段は人工乾燥のもの。同じスギとは思えません。違いが歴然ですね。
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伝統技法研究会の御3人はその後、奈良で取材とのことでした。ほとんど手弁当とのことで、伝統技法研究会の方の熱心さにもとても熱いものを感じました。遠路、ありがとうございました。
久しぶりに甲賀・森と水の会っぽい投稿でした。(川端建築計画 川端眞)

# by moritomizunokai | 2013-07-01 09:57 | 雑感  

記憶を継ぐ家の引渡し

2009年の1月にリフォームをご相談を受けてから4年。ようやく記憶を継ぐ家の引渡しができました。(まだ未完成の部分もあるのですが。。。)
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以前の建物もただ解体するのではなく、引き倒し実験に使用させていただき、伝統構法の貴重なデータとなりました。
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個人の住宅ですので、あまり写真が載せられませんが、記憶を継ぐ家のコンセプト「以前の家がそこに存在したことを思い起こさせるような家」が実現できたと思います。水中乾燥材を使い、石の上に大工の手刻みによる木組みで丁寧につくりました。壁は地面から生えてきたような納まりです。
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以前もそこにあった縁側には、山元さん作の障子で全開放できます。午後の暖かい日差しが入っていて、すでに息子さんがこの特等席を独り占めしていました。
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家の中心はメースンリーヒーターです。オーブンもついています。宮内さんが真剣な顔をしているのは、お金の話をしてるから???
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実はこのストーブにはもう一つ秘密があります。後側がこんな形をしています。決して階段ではありません、へんな形をしたストーブなだけです。自己責任での上り下りに私は関知しません。建築主さんには好評でした。(川端建築計画 川端眞)
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# by moritomizunokai | 2013-04-09 12:01 | 木造住宅のこと  

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます。
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去年も伝統構法一色といった一年でした。そして何よりも大きな出来事だったのが、三重塔の構造設計に取り掛かったことです。はじめは手探り状態でしたが、ようやく構造システムがわかりかけてきたところです。予定では昨年に完了しているはずだったのですが、不測の事態が頻発したため、現在、必死のパッチ状態です。加えて伝統構法委員会も大詰めで、実験の報告書や計算事例の作成など、やらなければならないことが山盛りです。ということで、長めだったお正月休みもすべて返上して作業を続けていました。(飲みながらですけど)
3月でまとめられる設計法ですが、標準設計法が結構いい感じです。計算はほどよく面倒臭いので架構を理解してからでないと取り掛かれないのですが、ほぼ四則計算だけでOKです。一定の制約があるものの、石場建てもできます。あとはこの設計法に国交省のお墨付きがもらえるかだけです。(川端建築計画 川端眞)

# by moritomizunokai | 2013-01-06 19:36 | 雑感  

理事長現る in Eディフェンス

ご無沙汰しています。書くことがなかったわけではないのですが、Facebookなんかでちょこちょこと近況を書いているとブログが面倒になって・・・。
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久しぶりに理事長が現れました。場所は兵庫県三木市のEディフェンスです。9月18日と19日に「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会(長すぎる)」の実大振動台実験がおこなわれました。理事長は材料部会で水中乾燥の謎を解明中の研究者として、副理事長の宮内さんと私は損傷観察などの働くおじさんとして実験に参加しました。今回の実験の最も大きな特徴は、試験体が実際に建てられている伝統的構法の建物に近いことです。具体的には、
 1.部分2階(総2階でない)
 2.偏心している(南側は開口だらけ)
そして何といっても
 3.石場建て
これだけでも胸が高鳴ります。しかしこれに加えて、2棟のうちの片方には柱脚に地長押を設けて、柱脚を固定した場合の挙動や土台式の石場建てを模擬したりと、実験内容も盛りだくさんです。
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実験の様子はこちらに公開されていますし、詳細な数値もじきに報告されるはずですので、感想を少しだけ・・・
18日の加振はどちらの建物も震動台に固定していませんでした。するとどちらも同じような損傷をするのですが、当然ですが地長押で繋がれている柱脚は傷みがありません。19日の1回目の加振では地長押を振動台に固定したのですが、滑らない分、上部の応答が大きくなりました。前日の加振で傷んだ壁を2Pだけ荒壁パネルに取り替えてあったのですが、その損傷の差が顕著でした。そして最終加振は地長押を固定しないで800ガルを越える巨大地震波が入力されました。おおかたの予想に反して両方の試験体とも損傷はあまり増えておらず、石場建ての免震効果が証明されました。もし、地長押を固定したまま加振していたらきっと倒壊していたと思います。
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最後にひとつだけ秘密の情報を。地長押が一般的ではないと言われる方が多かったのですが、試験体は地長押を推奨したり、仕様規定にしようとしているわけではありません。階高を変えずに柱脚を拘束するためのアイデアです。何れにしても、柱脚がバラバラにならないディテールを考えないと、隅柱に写真のような損傷が発生します。この柱が折れたからと言って建物が倒壊するわけではありませんが・・・。

伝統木造に接して以来、多くの実務者が語ってきた石場建てに関する素人的で叙情的な話(つまり石場建ては免震効果があること)が、条件さえ揃えば大筋正しいことが証明される結果でした。標準設計法もかなり簡易な手法で既に概要ができていますので、少ない手間で開放的な石場建ての確認が降りる日もそう遠くないと思います。(川端建築計画 川端眞)

# by moritomizunokai | 2012-09-20 17:22 | 木造住宅のこと