この度の熊本地震で被害に会われた方にまずは心よりお見舞い申し上げます。去る5月3日から5日にかけて職人がつくる木の家ネットで組織された熊本地震の調査に参加しました。主として伝統構法建物の被害状況を調査するためです。
建物被害には大きくふたつに分類できそうです。ひとつは地盤の崩壊によるもの、そしてもうひとつは建物自体がもつ耐力不足等の問題によるものです。
地盤の崩壊はさらに大きくふたつに分類できます。ひとつは造成地の崩壊や地割れによる基礎の崩壊、そしてもうひとつは地盤の液状化による建物の沈下や傾斜です。前者は建築時に対処することは極めて困難ですが、後者は地盤調査が一般的ではなかった頃の建物に顕著な被害が出ているようであり、地盤改良を施すなど(既築の建物には困難ですが)建築時に対処が可能です。
写真1 地盤の崩壊1
写真2 地盤の崩壊2
山間部の石積み擁壁が崩壊している光景はあたかも昔ながらの山間部の集落が地震に弱いといった印象を与えますが、ヒアリングをしてみるとそうではないことがわかりました。今回調査した大切畑地区などは100年程度前から人々が暮らし始めたとのことであり、地震の発生周期からすれば、安全を確認していなかったと言わざるを得ません。つまり伝統的な集落は数百年の歴史を経て安全性を確認しているからこそそこに住み続けていると考えられます。そういう意味では100年程度しか人が暮らしていない地域というのは言うなれば新興住宅地です。さらに悪いことに、現代のような造成技術が発達していなかったことから簡素な石積みで無理な造成をしており、このことが被害を拡大させたと考えられます。
写真3 地盤の崩壊による建物被害1
写真4 地盤の崩壊による建物被害2
写真5 地盤の崩壊による建物被害3
(事情により非表示にしています)
建物自体の耐力不足については、現行の建築基準法を守れているかどうかではっきりと運命が分かれると言わざるを得ません。現行の基準(2000年)を守っているであろう建物で耐力不足が原因と考えられる倒壊はみられません。逆に言えば、それ以前の建物はプレファブ造でも大きな被害が出ているものもあり、構法による差異はあまりみられません。仕様規定であれ限界耐力計算であれ、きちんと法律を守って建てることが最も重要ですし、それ以前の建物は耐震補強を施すことが重要です。新しい建物で唯一、小屋部分が倒壊しているものが複数みられました。熊本では野路板に構造用合板を使用しないことが多いとのことであり、面剛性が不足していることが原因であると考えられます。
写真6 筋かい金物や柱脚金物が無い建物
写真7 プレファブ造の被害
写真8 小屋部分の被害
伝統構法による建物の被害は概して大きくみえます。構造的には十分に地震に耐えていても土壁が落ちたりすると大破しているようにみえます。伝統構法建物はその変形性能を活かして地震に耐えるため、どうしても変形の痕跡が残ってしまいます。しかし、大した手間をかけなくても修復することができるのです。また、今回の調査で最も不思議だったのが、偏心についてです。一般に偏心していることは良くないことであり、偏心が大きいほど被害は大きくなるといわれています。しかし、大きな変形を許容する伝統構法では、偏心による影響は全く感じられませんでした。水平構面が地震エネルギーを吸収しているとしか考えられません。屋根瓦については、棟が落下すると大被害に見えてしまいます。瓦葺きの工法は阪神淡路大震災の反省からガイドライン工法が普及しており、大被害のものと、(ガイドライン工法で施工されていると思われる)全くの無被害のものに二分されます。
写真9 伝統構法建物の被害
写真10 偏心の大きな伝統構法建物
写真11 ガイドライン工法による瓦屋根
伝統構法による建物で最もしてはいけないことは、我流による良いとこ取りではないでしょうか。例えば石場建てで基礎に緊結しないのであれば、一切留めつけてはならないし、仕様規定の逆手をとるようなこと(壁があるのに壁倍率にカウントしないなど)をすれば引抜が発生したり、偏心が増すなど、予想外の挙動をすることになり、最悪の場合、人の命を奪うことになります。
建物、特に住宅は人命を守ることが最大の役目であることを改めて肝に銘じた熊本地震調査でした。
(川端建築計画 川端眞)