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ヘリテージマネージャーって何?

3月1日の毎日新聞に「ヘリテージマネージャーって何?」という記事が掲載されました。有名な文化財はしっかり保護されていますが、名もなき歴史的建造物はその価値とは関係なく解体されてしまうことがよくあります。それらの保護を担うのがヘリテージマネージャーの役割です。滋賀県でも建築士会が育成講座を始めて、これまで92名のヘリマネが誕生しています。耐震診断や補強計画をする際、構造的な視点だけで行うと建物の価値を下げてしまいかねませんし、そのような残念な補強は文化財でもよく見られます。建物にとってどうするのかを総合的に判断できるプロフェッショナルとしての資格として、ヘリマネが認知されると良いなあと思います。(川端建築計画 川端眞)
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# by moritomizunokai | 2018-03-06 11:33 | 木造住宅のこと  

熊本地震の調査報告

 この度の熊本地震で被害に会われた方にまずは心よりお見舞い申し上げます。去る5月3日から5日にかけて職人がつくる木の家ネットで組織された熊本地震の調査に参加しました。主として伝統構法建物の被害状況を調査するためです。
 建物被害には大きくふたつに分類できそうです。ひとつは地盤の崩壊によるもの、そしてもうひとつは建物自体がもつ耐力不足等の問題によるものです。
 地盤の崩壊はさらに大きくふたつに分類できます。ひとつは造成地の崩壊や地割れによる基礎の崩壊、そしてもうひとつは地盤の液状化による建物の沈下や傾斜です。前者は建築時に対処することは極めて困難ですが、後者は地盤調査が一般的ではなかった頃の建物に顕著な被害が出ているようであり、地盤改良を施すなど(既築の建物には困難ですが)建築時に対処が可能です。

写真1 地盤の崩壊1
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写真2 地盤の崩壊2
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 山間部の石積み擁壁が崩壊している光景はあたかも昔ながらの山間部の集落が地震に弱いといった印象を与えますが、ヒアリングをしてみるとそうではないことがわかりました。今回調査した大切畑地区などは100年程度前から人々が暮らし始めたとのことであり、地震の発生周期からすれば、安全を確認していなかったと言わざるを得ません。つまり伝統的な集落は数百年の歴史を経て安全性を確認しているからこそそこに住み続けていると考えられます。そういう意味では100年程度しか人が暮らしていない地域というのは言うなれば新興住宅地です。さらに悪いことに、現代のような造成技術が発達していなかったことから簡素な石積みで無理な造成をしており、このことが被害を拡大させたと考えられます。

写真3 地盤の崩壊による建物被害1
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写真4 地盤の崩壊による建物被害2
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写真5 地盤の崩壊による建物被害3
(事情により非表示にしています)

 建物自体の耐力不足については、現行の建築基準法を守れているかどうかではっきりと運命が分かれると言わざるを得ません。現行の基準(2000年)を守っているであろう建物で耐力不足が原因と考えられる倒壊はみられません。逆に言えば、それ以前の建物はプレファブ造でも大きな被害が出ているものもあり、構法による差異はあまりみられません。仕様規定であれ限界耐力計算であれ、きちんと法律を守って建てることが最も重要ですし、それ以前の建物は耐震補強を施すことが重要です。新しい建物で唯一、小屋部分が倒壊しているものが複数みられました。熊本では野路板に構造用合板を使用しないことが多いとのことであり、面剛性が不足していることが原因であると考えられます。

写真6 筋かい金物や柱脚金物が無い建物
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写真7 プレファブ造の被害
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写真8 小屋部分の被害
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 伝統構法による建物の被害は概して大きくみえます。構造的には十分に地震に耐えていても土壁が落ちたりすると大破しているようにみえます。伝統構法建物はその変形性能を活かして地震に耐えるため、どうしても変形の痕跡が残ってしまいます。しかし、大した手間をかけなくても修復することができるのです。また、今回の調査で最も不思議だったのが、偏心についてです。一般に偏心していることは良くないことであり、偏心が大きいほど被害は大きくなるといわれています。しかし、大きな変形を許容する伝統構法では、偏心による影響は全く感じられませんでした。水平構面が地震エネルギーを吸収しているとしか考えられません。屋根瓦については、棟が落下すると大被害に見えてしまいます。瓦葺きの工法は阪神淡路大震災の反省からガイドライン工法が普及しており、大被害のものと、(ガイドライン工法で施工されていると思われる)全くの無被害のものに二分されます。

写真9 伝統構法建物の被害
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写真10 偏心の大きな伝統構法建物
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写真11 ガイドライン工法による瓦屋根
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 伝統構法による建物で最もしてはいけないことは、我流による良いとこ取りではないでしょうか。例えば石場建てで基礎に緊結しないのであれば、一切留めつけてはならないし、仕様規定の逆手をとるようなこと(壁があるのに壁倍率にカウントしないなど)をすれば引抜が発生したり、偏心が増すなど、予想外の挙動をすることになり、最悪の場合、人の命を奪うことになります。
 建物、特に住宅は人命を守ることが最大の役目であることを改めて肝に銘じた熊本地震調査でした。(川端建築計画 川端眞)

# by moritomizunokai | 2016-05-08 18:17 | 木造住宅のこと  

皇三重ノ塔建設途中見学会

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「日本一のおかき処」で有名な播磨屋本店が豊の岡工場の敷地内に建立される皇(スメラギ)三重ノ塔の建設途中見学会を行います。兵庫県太子町に現存する室町後期の斑鳩寺三重塔をモデルにした皇三重ノ塔は平成24年から設計にとりかかり、26年春に着工、現在、二重まで組みあがりました。完成してしまうと内部は見学できませんので、是非この機会にご覧ください。皇三重ノ塔には日本で初めてのことがあります。文化財でない新築の塔は当然のことながら建築基準法を守らなければなりませんので、これまで建立された文化財でない塔には塔体が金属によって補強がされていると思います。文化財でも補強されているものがあるくらいです。しかしこの塔には、芯柱の相輪部分と4隅の柱脚にはめた割れ止めのタガ以外、金属の補強は一切なく、伝統構法そのものです。もちろん柱脚は石の上に乗っているだけの石場建てです。(川端建築計画 川端眞)
申し訳ありません。希望者多数の為、申し込みを締め切らせていただきます。(川端建築計画 川端眞)

# by moritomizunokai | 2016-01-13 13:27 | お知らせ  

がっちりマンデーの取材

7月29日、副理事長の宮内さんが「がっちりマンデー」の取材を受けました。取材テーマは「熟成」だそうです。水中乾燥®が熟成と呼べるかは別として、手をかけて素材の良さを最大限に引き出すという意味では、熟成といえなくもないか・・・といった感じです。気楽な情報番組ですので、固いことはいわなくても大丈夫とのことでしたが、熱く熱く語る宮内さんでした。
宮内建築の作業場でひととおりレクチャーしたあと、例によって貯水池に足を運んでもらい、杉丸太が泳いでいるのを見てもらいました。そのあと、週末に見学会を予定している守山市のHさんのお宅も取材されました。たまたまHさん家族が全員お揃いだったので、急遽インタビュー。水中乾燥材へのこだわりを話していただきました。
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最後は流れで、例の「がっちり」をやってしまいました。まったく儲かってないのに・・・。
オンエアは8月31日(日)朝の7:30です。5分程度とのことですが、ご興味のあるかたはご覧ください。(川端建築計画 川端眞)

# by moritomizunokai | 2014-07-30 10:29 | 水中乾燥実験とは  

長かった~~~。

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 「日本一のおかき処」で有名な播磨屋本店が豊ノ岡工場(兵庫県豊岡市)の敷地内に三重塔を建立されます。構造設計の依頼をお受けして、モデルとなった斑鳩寺の三重塔を見学したのが、平成24年2月1日でした。あれから約2年、ようやく建築確認申請が提出できるまでにこぎつけました。どうしてこんなに時間がかかったかというと、主たる原因は限界耐力計算が使えなかったからです。根拠なく限界耐力計算でいけると考えていたわけではありません。日経アーキテクチャの2011年9月25日号に大成建設が設計施工した法然寺五重塔が紹介されています。この中に限界耐力計算を採用し工作物として申請したと書いてあったからです。天下の大成建設が言っているのだから大丈夫だろうと・・・。ところが兵庫県に問い合わせてみたところ、工作物には限界耐力計算のルートがないので、仕様規定を守れないのなら構造評定+大臣認定しかないといわれました。人間が中に入る建築物なら限界耐力計算でよいのですから、多分、建築基準法のミスだと思うのですが、法律ですから仕方ありません。やったことのない時刻歴応答解析で大臣認定を取得することになりました。
 まず解析ソフトを探しました。偶然、ナストランという有限要素法のソフトが借用できたのでモデル化をはじめました。6か月やりましたが、結局まともに動かすことができませんでした。ソフトについてはその後、鈴木祥之先生に助けてもらい、なんとか切り抜けました。耐震設計をする場合、建物重量はとても重要です。ところが、三重塔は形状が複雑で重量がわかりません。そこで3次元CADに入力して体積を計測することにしました。この作業は、所員が3か月かかりきりで入力してくれました。
 そもそも時刻歴応答解析とはどういった解析方法なのでしょう。地震波をモデル化した建物に入力して時刻ごとの変位を計算するものです。もちろん電卓では計算できません。通常は60メートルを超える超高層建築の設計に使われていて、東京スカイツリーもこの方法で設計されているはずです。こんな高度な解析をするのですから、適切なモデル化と地震波、そして建物重量さえそろえばできたも同然だと考えていたのですが、そうは問屋がおろしません。時刻歴応答解析を使うのは耐震設計の2次設計だけで、耐震設計の1次設計とその他の設計は許容応力度設計が必要だったのです。当たり前といえば当たり前ですが。
 なんとか計算書をまとめて審査機関に相談に行ったのが24年12月17日でした。そこで驚愕の言葉を耳にします。「そんなん勝手に建てたらええのに・・・」。しかしそういうわけにもいかず、大量の指摘事項をいただいて帰ってきました。計算書を直しだすと間違いに気づき、間違いを直すと勘違いに気づき、といった具合でなかなか収束しなかったのですが、ようやく25年6月11日に評定の受付委員会に上げてもらいました。通常の評定では受付委員会の後、部会が2回程度開かれて報告委員会に報告という感じですので、2か月程度で処理されているとのことでした。しかし今回は部会が7回開かれ、審査機関の最高記録を更新したとのことでした。部会が行われるたびに質疑事項が増えていき、もう一生終わらないかもと思うほどでした。建設地は1.5メートルの多雪区域なので、落雪の衝撃力や巻き垂れなど、検討方法のないことについても検討を要求されました。また、柱脚が浮き上がり量を予測したり、その後着地した時の衝撃力に対して安全かなど・・・。高校生の物理レベルで大学教授を納得させられるはずもなく、最後には結構助け舟をだしてもらいました。
 11月16日に開かれた第7回部会ですべての質疑が処理でき、11月26日に報告委員会で報告していただきました。その後、審査機関の審査を経て26年1月10日に国交省に申請し、3月3日付けで大臣認定をいただきました。この三重塔には日本で初めてのことがあります。文化財でない新築の塔は当然のことながら建築基準法を守らなければなりませんので、これまで建立された文化財でない塔には塔体に金属によって補強がされていると思います。文化財でも補強されているものがあるくらいです。しかしこの塔には、芯柱の相輪部分と4隅の柱脚にはめた割れ止めのタガ以外、金属の補強は一切なく、伝統構法そのものです。もちろん柱脚は石の上に乗っているだけの石場建てです。それにしてもよく評定が下りたものだと思います。塔が安全なのかどうかは今のところ誰にもわかりませんが、それでも安全だといってもらえたのは多分、部会の先生や審査機関の担当者の方々の粋な計らいなのだと思います。長く苦しい2年間でしたが、終わってみれば結構充実していました。最後になりましたが、鈴木祥之先生をはじめ、斉藤幸雄先生、後藤正美先生、上谷宏二先生、宮本裕司先生、清水秀丸先生、瀧野敦夫先生、播磨屋三重塔研究会の先生方、審査機関のみなさん、そのほかここに書ききれないほどのご指導いただきました先生方、本当に感謝しております。(川端建築計画 川端眞)
長かった~~~。_f0060500_19334131.jpg

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# by moritomizunokai | 2014-03-10 19:36 | 雑感